東京高等裁判所 昭和35年(け)9号 判決 1960年6月29日
被告人 李玩春
主文
本件異議申立を棄却する。
理由
本件異議申立理由の要旨は、原決定は被告人の内縁の妻黒住はる子が選任した弁護人田代博之によつてなされた控訴の申立を不適法と認めて控訴を棄却したのであるが被告人と黒住はる子は昭和二六年七月一日教会において牧師立会の下に婚姻したもので正式の入籍はしなくとも事実上の夫婦関係にあるため同女は当然被告人の妻として被告人のため田代弁護人を選任し控訴手続をとつたものである。これが不適法であるとすれば被告人において改めて控訴手続を取り度いから原決定の取消を求めるため異議申立を行つた、というのである。
しかしながら、記録によれば、黒住はる子は被告人の内縁の妻であることは明らかであり、同女が被告人のため弁護人を選任する権限のないことはいうまでもないから、同女のなした田代弁護士の弁護人選任は不適法であり、したがつて田代弁護士の本件控訴申立もまた不適法に帰するのでこれを棄却した原決定は誠に正当である。なお、申立人は本件控訴が不適法とすれば被告人が自ら改めて控訴したいというのであるが、記録に徴すれば本件の控訴申立期間はすでに経過しており、申立人主張のとおり黒住はる子が申立人の妻として同人のため弁護人の選任をなし得るものと信じ田代弁護士を選任し控訴手続を行つたために、適法な控訴手続をする期間を徒過したとしてもこれを以て自己又は代理人の責に帰することができない事由とは認め難く、その他期間徒過につき正当な事由があつたとは認められないから申立人は上訴権回復の請求も為し得ないわけであつて、被告人の申立は到底これを容れる余地はないのである。
よつて本件異議申立を理由ないものと認め、刑事訴訟法第四二六条第一項第三八五条第二項により、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 長谷川成二 渡辺辰吉 白河六郎)